いつか見た光景

僕は彷徨い続けている。
〜 戻れぬ過去とひとり遊び 〜

いつか見た光景 〜 過去を探しに 〜

二〇一二年五月に生まれ故郷の大隅大河原を訪ねる。
幼い頃に、一度父に連れて行かれた。
見知らぬ人から大きくなったねと声をかけられ裸電気の和室で夕食を囲んだ。
僕が生まれた頃の写真を探しに役場へ足を運ぶ。
一冊の本を手にした。「大河原の人々」、戦後まもない写真だろうか。
大人も子供も小汚い着物姿、一九六〇年としるされている。
言葉が出ない。懐かしさが込み上げてくる。
母から聞いた当時の話しと重なり涙が溢れた。
役場を後にし、あろうはずの無い生家を探した。
駅のロータリー、線路沿いに居たという言葉を頼りに。
過去はひとかけらも存在していない。
想像していた。僕が探したものは有形、あるはずも無い。


君に逢いたい。
ホワイトカラーの絵の具で時空(とき)を消して、きみに会いたい。
机に向かう横顔、秘密のメモ、席替えをしてもいつも隣りどおし。
微笑み、怒った顔、そして寂しさに流した涙。
さよならも言えずにきみを残して。
きみの恋のキャンバスは何色だろう。
すてきな出会い ワインの香り、過ぎ去った季節。
僕の絵の具は見つからない 。
きみのキャンバスに想い出を描いてきみを抱きしめたい。


最初で、そして最後だった二人ですごした時間。
君が流した涙の訳が分からなかった。
別れを知っていたのだろうか。
泣き収まらないきみを前に、その思いさえ想像しなかった。
僕は父の都合で他県へ、翌週、君は宮崎市内へ転校したと聞いた。
最後の週、君の姿はなかった。
誕生日、出席番号、いつも隣りどおし、夏休みが終わり初日の同じポロシャツ。
薄らいでいく君の瞳、一枚の写真もない。

×

非ログインユーザーとして返信する