いつか見た光景

僕は彷徨い続けている。
〜 戻れぬ過去とひとり遊び 〜

いつか見た光景 〜 序章 〜

冬の夜空に輝く夢幻の星々。
遥か彼方の暗幕に生まれ、いま時空を経てその姿を映し出す。
ここにたどり着くまで幾千光年の間、闇を照らし続けて来たのだろうか。
人は明日を思い夢を語るが確かなことは、今も過去も存在しない世界で、未来を刻む時計が音もなく終演を告げて行く。
早く気づくべきだった。忘れられない時、叶えたかった夢。
深夜の家路、見上げる冬空に魅了されて行く。


一九六二年五月五日に生まれる。
鹿児島の小さな山村、大隅大河原。
藁葺き屋根、土間がある戦前の家、かすかな記憶は駅を越えた丘陵にある紫陽花とそこに住む貧しい兄妹。アルバムには若い父と母、僕がいる。
その後、宮崎県都城市で十四才まで過ごした。


一九六二年五月七日、君が生を授かる。
バンククラーカーの次女。君の生い立ちは知らない。
父親は転勤を繰り返して来たと聞いた。
君と過ごした時間は長くなかった。
ただ、受け止め難き輝きと果てしない孤独を僕に残した。
過ぎ去りし日に思いを馳せても君はいない。


一九八〇年、東京の大学でひとりの女性と出逢う。可憐で純粋なひと。

原宿表参道沿いの教会で式を挙げ、ふたりの子を授かる。

過ぎていく時の中でいつしか父親らしきものになり、サラリーマンとしても評価を得ている。

だが、大人と言われるものにはなれなかった。

同じ日々の繰り返しに疲弊したのか。

小さな夢を追いかけてみたが、満たされることはなかった。

心こわれ、薬物で眠りに就く。

ときに、酒に溺れ幻想に満たされタバコをふかし夜明けを待つ。

僕の魂まで支配はできない。


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